ワインのラベルを眺めながら、ふとこんな疑問を抱いたことはありませんか?
「“国産ワイン”と“日本ワイン”って、何が違うんだろう?」
どちらも日本で造られているイメージがあり、なんとなく同じものだと思っていた――そんな声を、実際によく耳にします。
実はこのふたつ、ワインの中身を知るうえで、とても大事な違いがあるのです。
今回は、そんな素朴な疑問にお答えするかたちで、「国産ワイン」と「日本ワイン」の明確な違いと、それぞれの魅力について、わかりやすくご紹介します。
国産ワインと日本ワインの基本的な違い
一番大きな違いは、「ぶどうの産地」と「醸造場所」にあります。
- 日本ワイン:日本国内で栽培されたぶどうを100%使用し、日本国内で醸造されたワイン
- 国産ワイン:ぶどうや濃縮果汁の原料が海外産でも、日本国内で醸造すれば「国産」と表示できる
以前は、「国産ワイン」と表示されていても、すべてが日本のぶどうから造られているとは限りませんでした。
海外産のぶどうや濃縮果汁を輸入し、日本国内で発酵・醸造したワインも「国産」として並んでいたのです。
そのため、本当に日本の畑で育ったぶどうから丁寧につくられたワインであっても、それ以外のワインと一緒にされてしまい、違いが見えづらいというのが実情でした。
そうした曖昧さをなくすために、2018年に「果実酒等の製法品質表示基準」という制度が導入されました。
この制度によって、日本産のぶどうを100%使い、国内で造られたワインだけが、「日本ワイン」と名乗ることができるようになったのです。
いまではラベルにも「日本ワイン」と明記されているボトルが増え、造り手のこだわりや背景を感じながら、選ぶ楽しさも広がってきました。
背景にある“造り手”の想いと努力
新しい表示ルールが定められた背景には、日本各地のワイナリーが地道に築いてきた“こだわりのワインづくり”があります。
世界のワイン産地では、テロワール(風土)やヴィンテージ(年ごとの気候の違い)など、土地の個性を活かしたワインづくりが当たり前のように行われています。日本でも、そうした価値観を大切にしたワイナリーが年々増え、世界的なコンペティションで高評価を得る銘柄も現れるようになってきました。
しかし一方で、「国産ワイン=日本のぶどうでできたワイン」という誤解は根強く、せっかく丁寧に造られた“本物の日本ワイン”の魅力が、正しく伝わっていなかったのも事実です。
そこで制度として明確な線引きをすることで、日本のぶどうを使った純粋なワインの価値をきちんと伝える――
これが、「日本ワイン」という表示の誕生につながったのです。
いま「日本ワイン」が注目されている理由
制度が整った今、日本ワインがますます注目を集めています。
その理由はただ「国産だから」ではなく、日本独自の風土・技術・感性が生んだ、確かな品質と奥行きにあります。
1. 日本の気候に合わせたぶどう栽培と工夫
日本は雨が多く湿度も高いため、ぶどう栽培にとっては決して理想的な気候とは言えません。
しかし近年では、そうした環境に適した品種の開発や、剪定・除葉・房管理といった農法の改良により、品質の高いぶどうが日本各地で育つようになりました。
たとえば…
- フランス由来の「シャルドネ」や「ピノ・ノワール」
- 日本固有の「甲州」「マスカット・ベーリーA」
といった品種が、それぞれの土地の気候に根付き、豊かな香りや味わいを生んでいます。
2. 中小ワイナリーによる“丁寧な手仕事”
日本の多くのワイナリーは、規模こそ大きくありませんが、その分ひとつひとつの工程を丁寧に行う手仕事のスタイルを守っています。
例えば、
- 手摘み収穫
- 小ロットでの発酵管理
- 発酵や熟成を畑や区画ごとに分ける方法
など、まるで“農作物を育てる”ような感覚でワインが造られています。
そんな造り手の想いが詰まったワインは、どこか柔らかく、優しい味わいに仕上がるのが特徴です。
大量生産にはない、人の手の温度を感じられる――これも日本ワインの大きな魅力でしょう。
3. 和食との相性が抜群に良い
もうひとつ、日本ワインを語る上で外せないのが「和食との相性」です。
日本のワインは、香り・酸味・渋みのバランスがとても繊細に調整されており、主張しすぎないため、出汁や発酵食品、醤油や味噌といった旨味中心の料理と非常によく合います。
- 塩焼きの魚
- 出汁の効いた煮物
- 納豆や漬物を含むおつまみ
こうした“日常の食卓”にも寄り添う味わいが、日本ワインをリピーターにさせる理由かもしれません。
“日本ワインらしさ”を追求する造り手たち
― 楠わいなりーの取り組み
長野県須坂市にある「楠わいなりー」は、“本物の日本ワイン”にこだわる造り手のひとつです。
このワイナリーでは、信州産のぶどうを100%使用し、栽培から醸造、瓶詰めに至るまですべての工程を国内で行うことで、正真正銘の日本ワインを造っています。
特徴的なのは、“畑ごとの個性をそのままワインに反映させる”という姿勢。
同じ品種であっても、畑の場所・向き・標高によって微妙に変わる味わいを尊重し、収穫・発酵・熟成を別々に管理。これによって、テロワール(風土)のニュアンスが繊細に表現された一本が生まれるのです。
また、添加物に頼らず、自然酵母や低温発酵を採用するなど、ナチュラルで“料理に寄り添うワイン”を目指しています。
当店でも人気の銘柄を少しご紹介すると…
-
楠R 2019
メルローの柔らかな果実味と落ち着いた樽香が調和し、和食から洋食まで幅広くマッチ -
スペシャルキュヴェ シャルドネ
柑橘系の爽やかな酸味と上品なミネラル感が特徴。白身魚のカルパッチョにぴったりです。
このように、楠わいなりーは“日本ワインらしさ”を一貫して追求するワイナリーのひとつ。
今後、同じような哲学を持った造り手が増えれば、日本ワインの世界はさらに広がっていくでしょう。
日本ワインと暮らす、ささやかな贅沢
「ワインは特別な日の飲み物」と思われがちですが、日本ワインには、日々の食卓にすっとなじむ親しみやすさがあります。
特別な道具も、複雑なペアリングも必要ありません。
気負わずに、「ちょっと今日はワインにしてみようか」と思えるような、柔らかさと優しさが、日本ワインにはあるのです。
たとえば――
-
平日の夕飯に
鯖の塩焼きとご飯、冷奴、味噌汁。そんなメニューに、ライトな甲州ワインを一杯。ワインが醤油や出汁とやさしく調和して、食後の満足感がぐっと増します。 -
週末のおうち時間に
ちょっと贅沢な刺身盛り合わせに、楠わいなりーのシャルドネを。柑橘の香りが鮮魚の旨味を引き立て、リラックスした時間が生まれます。 -
贈り物に
お中元やお祝い事に、日本の四季と風土が詰まった1本を。海外ワインに比べてまだ珍しさがあり、“センスが光るギフト”としても喜ばれます。
気取らず、でも確かに丁寧。
そんな日本ワインの立ち位置は、今の時代にちょうどいい“豊かさの形”なのかもしれません。
「ラベルの意味」を知ると、ワインの世界が広がる
「日本ワイン」と「国産ワイン」の違いは、一見すると地味な話かもしれません。
でも、その違いを知っているだけで、選び方が変わり、楽しみ方が変わるのです。
ラベルに「日本ワイン」と記されていれば、それは
- 日本のぶどうから生まれ
- 日本の土地と気候を受け
- 日本の造り手が心を込めて仕上げた一本
であるという証。
そんな背景を思い浮かべながら味わうワインは、もはや飲み物ではなく、文化であり、ストーリーであり、人と土地をつなぐ橋にもなります。
海外の名門ワインも素晴らしいですが、私たちの足元には、まだまだ知られていない“宝物”のようなワインがたくさん眠っています。
これからの1本に、「日本ワイン」を
「次にワインを買うとき、なにを選ぼうかな」
そんなときに、ふと「日本ワイン」のラベルが目に留まる。
「これは国産ぶどうから造られた、ちゃんとした日本ワインなんだな」
そう気づいてもらえたら、それだけでこの記事の意味があると思っています。
楠わいなりーをはじめ、日本全国に“いいものを丁寧に届けよう”とがんばるワイナリーがたくさんあります。
当店でも、今後はそういった日本ワインのラインナップを増やしていく予定です。
ぜひ一度、ご自宅で、日本のワインをゆっくり味わってみてください。
日々の暮らしに、ちょっとした発見と、心地よい余韻が生まれるはずです。