楠わいなりーについて語らせてください

2025年6月23日

「このワイン、どこのワイナリーのものですか?」

そんなふうに声をかけていただくことが、よくあります。
初めてのお客さまも、常連のお客さまも、ふとした一杯でそうおっしゃるのです。

強く主張するわけでも、派手な香りがあるわけでもない。
けれど、気がつけば思い出す——

そんな静かな余韻を生み出すワインの造り手の名は、楠わいなりー
長野県・須坂市にある、小さな家族経営のワイナリーです。
自社畑でぶどうを育て、醸造から瓶詰めまで、一貫して丁寧に手がけています。

当店でも、さりげなく、けれど確かに、心に残る存在として愛さ続けています。

このコラムでは、そんな楠わいなりーの魅力を、土地の空気や造り手の姿勢とともに、ご紹介させていただきます。

 

ワイン造りに適した長野・須坂の風土

楠わいなりーのある長野県須坂市は、千曲川(ちくまがわ)沿いに広がる自然豊かな地域です。
昼と夜の寒暖差が大きく、湿度が低くて風通しも良いこの地は、ぶどう栽培に適した理想的な条件を備えています。

標高はおよそ400〜500メートル。
高冷地ならではの冷涼な気候が、ぶどうにゆっくりと成熟の時間を与え、酸味と香りのバランスを整えてくれます。
過度に糖度を上げず、あくまで“食事に合うワイン”を目指す楠わいなりーにとって、この土地の環境はまさに恵みそのものです。

また、周囲を山に囲まれた須坂では、畑ごとに土壌や気象条件が異なります。
この自然のばらつきを活かし、区画ごとの個性を反映したワインづくりが行われているのも特徴です。

自然の力を否定せず、そのまま受け入れ、引き出す。
楠わいなりーのワインからは、そんな土地の力強さとやさしさの両方が、静かに伝わってきます。

 

自社畑・自社醸造へのこだわり

楠わいなりーでは、自社の畑で大切に育てたぶどうのみを使用し、醸造から瓶詰めまでを一貫して自らの手で行っています。

畑での育成からワインとしての完成まで、そのすべてを見守ることで、ぶどうの声をそのままボトルに封じ込めるような味わいが生まれます。

過度な介入を避け、自然のリズムを尊重しながらも、発酵管理や衛生管理など、科学的な視点を大切にするバランスのとれた造り。
これこそが、楠わいなりーの真摯なスタイルです。

 

スペシャルキュベ シャルドネ ── 繊細さと奥行きが調和する一本

この姿勢を象徴するのが、「スペシャルキュベ シャルドネ」。
自社畑で丁寧に育てられたシャルドネを100%使用し、フランス・アリエ産のフレンチオーク新樽で12ヶ月熟成
自然発酵・マロラクティック発酵・全房発酵など、ぶどうの持ち味を活かす伝統的な手法が随所に取り入れられています。

香りにはトーストやナッツ、柑橘の皮を思わせるニュアンスがあり、口に含むと、果実味と酸が美しく調和。
過度な樽香に頼らず、あくまで料理を引き立てる奥ゆかしさが感じられます。

白身魚のポワレ、帆立のバターソテー、鶏のローストなど、素材の旨味を活かした料理と好相性。
和洋問わず、食卓に静かな豊かさを添えてくれる一本です。

 

自然との調和を大切にしたぶどう栽培

楠わいなりーでは、ぶどうの栽培においても「自然と調和すること」をとても大切にしています。除草剤や化学肥料は使わず、畑に生える草も無理に取り除かずにそのまま育てる「草生栽培(そうせいさいばい)」という方法をとっています。

一見ただの雑草に見える草たちも、実は土の乾燥を防いだり、微生物や虫の住処となったりと、畑の環境を整える大切な存在です。こうした自然のサイクルを壊さずに見守ることで、ぶどうの木は健やかに、のびのびと育ちます。

とはいえ、ただ自然に任せるのではなく、年ごとの天候や畑の様子を丁寧に観察しながら、必要なときには的確な手入れを施す。
そうした「寄り添いながら手をかける」姿勢が、楠わいなりーの栽培スタイルです。

そうして育まれたぶどうには、畑の空気や土の個性がそのまま宿り、ワインに仕上がったときには、どこか静かで整った味わいが自然と現れてきます。

 

楠R ― 土地と共に生きる赤ワイン

こうした自然に寄り添う畑づくりの姿勢から生まれたのが、赤ワイン「楠R」です。

メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンといった代表的な品種を用いながらも、必要以上に主張せず、あくまでその土地のリズムを映し出すような味わいに仕上がっています。

果実味、酸、渋みのバランスがほどよく整い、ひと口ごとにじんわりと広がる、落ち着きのある赤ワイン。
過熟を避けたぶどうからは、みずみずしさと透明感が感じられ、飲み進めるほどに奥行きのある表情が見えてきます。

グラスの中でゆっくりと香りを開きながら、静かに語りかけてくるような味わい——
「自然との対話」から生まれた一本。それが、楠Rです。

 

やさしさが際立つ味わいの理由

楠わいなりーのワインを口にしたとき、思わず「やさしい」という言葉が浮かぶことがあります。

それは単に軽やかで飲みやすいということではなく、香り・果実味・酸・ミネラル感が突出することなく、全体が静かに溶け合いながら広がっていく——そんな調和のとれた印象があるからです。

そのやさしさの背景には、栽培から醸造に至るまで「自然の力を尊重する」という造り手の姿勢があります。

畑では草生栽培によって自然の循環を守り、ぶどうはその土地の気候や環境に合わせて、無理なく、じっくりと成熟。
過度な糖度の引き上げを避けることで、果実の持つ酸や香りが生きた、健やかなぶどうになります。

醸造でも野生酵母による自然発酵を基本とし、人の手は必要最小限に。
ぶどうが本来持つ力を引き出すように、ゆっくりと時間をかけてワインへと育てられます。

こうしてできあがったワインには、派手さではなく、心地よい余韻と静かな深みがあります。

「飲み疲れしないのに、しっかりと印象に残る」。

そんな味わいこそが、楠わいなりーの大きな魅力です。

料理とも自然に寄り添い、日常の中にそっと寄り添ってくれる一本。
そんなワインをお探しの方に、ぜひ一度味わっていただきたいと思います。

 

楠わいなりーのワインを、オンラインでご自宅に

当店では、定番の人気銘柄に加え、少し通好みな一本や、季節ごとの限定ワインもお取り扱いしています。
ここではその中から、あまり知られていないけれど、心に残る味わいを持つ銘柄をいくつかご紹介します。

 

ドラゴン メルロー(赤)

須坂の自然を感じさせる、瑞々しく透明感のあるメルロー。
完熟しすぎない果実味に穏やかなタンニンが重なり、すき焼きや味噌焼きなど、甘辛い料理と寄り添うような一本です。
「メルロー=濃厚」というイメージをやさしく裏切ってくれる、楠わいなりーらしい赤ワインです。

 

ドラゴン ピノノワール(赤)

苺を思わせる可憐な香りと、ふんわり軽やかな口当たりが印象的な赤ワイン。
塩や出汁を効かせた和食と相性がよく、冷やしめで楽しめば、夏の焼き茄子や冷しゃぶにもぴったりです。
気取らずに楽しめる、やさしいピノ・ノワールです。

 

キュベマサコ2021(白)

シャルドネ主体のややボリュームある白ワイン。
ふくよかな果実味とやわらかな酸、ほのかな樽香が上品に重なり、鶏肉の塩焼きや西京焼きなど、香ばしい料理と美しいバランスを見せます。
日本ワインの繊細さの中に、どこか奥行きのある包容力を感じさせる一本です。

 

スペシャルキュベ ピノノワール(赤)

特別な区画のぶどうを用いて造られた、楠わいなりー渾身の一本。
複雑で深みのある香り、ゆるやかに広がる果実味、きめ細かな酸とタンニン──
どれもが静かに調和し、特別な食卓を穏やかに引き立ててくれます。
記念日や贈り物にもおすすめです。

 

どれも決して派手ではありませんが、ふとした瞬間に心に残る——
そんな楠わいなりーのワインたちを、ぜひご自宅でゆっくりと味わってみてください。

日々の食卓にはもちろん、大切な方への贈りものにも。
穏やかで深い余韻が、特別なひとときをやさしく彩ってくれるはずです。

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