日本ワインを象徴する3品種:甲州、マスカット・ベーリーA、山幸

2025年9月30日

日本のワイン文化を語るとき、欠かせないのが「ぶどう品種」です。
世界のワイン産地では、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネといった国際的に知られたぶどうがブランドを築いていますが、日本には日本ならではの固有品種があります。

その代表格といえるのが 甲州(こうしゅう)マスカット・ベーリーA(MB-A)、そして北海道発の 山幸(やまさち) の3品種です。
これらはいずれも国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に登録されており、「日本を象徴するぶどう品種」として国内外で注目を集めています。

本コラムでは、それぞれの品種が持つ 歴史・特徴・味わいの傾向・今後の可能性 を詳しく解説し、日本ワインを選ぶ際の参考にしていただけるよう整理しました。

 

甲州 ― 日本最古のワイン用ぶどう品種

歴史と背景

甲州は、日本で最も長い歴史を持つワイン用ぶどうとして知られています。
記録によれば、奈良時代から山梨県で栽培されていたとされ、約1,000年以上の歴史を誇ります。遺伝子解析の結果、シルクロードを経由して渡来したぶどうが日本の気候に適応し、独自に進化した可能性も指摘されています。

現在では山梨県勝沼を中心に栽培が広がり、まさに「日本ワインの顔」として位置づけられています。

特徴と味わい

  • 果皮はややピンクがかった淡い色合い。

  • フレッシュで透明感のある酸味。

  • 柑橘や白い花の香りに、ほのかなミネラル感

  • 和食と抜群の相性(寿司、天ぷらなど)

甲州はアルコール度数が比較的低めで、すっきりとした酸味が特徴。繊細な和食と合わせると食材の旨味を引き立てます。

醸造の広がり

かつては軽快な白ワインに仕立てられることが多かった甲州ですが、現在では以下のような多様な醸造が試みられています。

  • 樽熟成型:リッチな味わいを持たせる。

  • スキンコンタクト型:果皮ごと仕込むことで厚みや複雑さを出す。

  • スパークリング型:爽快感を生かし食前酒として人気。

こうした進化は、甲州のポテンシャルの高さを物語っています。

 

マスカット・ベーリーA ― 日本を代表する赤ワイン用品種

誕生と背景

マスカット・ベーリーAは、新潟の 川上善兵衛 によって1920年代に誕生した日本独自の赤ワイン用ぶどうです。
「日本の風土に合う赤ワイン用品種」を目指して、彼は1万種以上の交配を行い、その中から生まれたのがMB-Aでした。

特徴と味わい

  • チェリーやベリー系の果実香が豊か。

  • 渋みは穏やかで、酸味とのバランスが良い。

  • 軽やかで親しみやすい飲み口から、赤ワイン初心者にもおすすめ。

醸造の多様性

スタイルの幅が広いのもMB-Aの魅力です。

  • フレッシュ&ライトに仕立てると、焼き鳥や和食に好相性。

  • 樽熟成を加えると、チョコレートやスパイスを思わせる複雑さが生まれる。

その親しみやすさから「日本の赤ワインといえばMB-A」と言われるほど国内で広く愛されています。

国際的評価

近年は国際コンクールでも受賞例が増えており、OIVに登録されたことで「日本の赤」を世界に発信できる品種として期待されています。

 

山幸 ― 北海道発の新世代品種

開発と登録

山幸は、北海道池田町の「清見」と山ぶどうを交配して育成された品種です。
2000年代に注目され始め、2020年にはOIVに正式登録。甲州・MB-Aに続く日本固有の国際登録品種となりました。

特徴と味わい

  • 耐寒性に優れ、北海道の厳しい冬にも耐える力を持つ。

  • 色調は濃く、力強いタンニンと野性味あふれる風味。

  • ブラックベリーやスパイスのニュアンスがあり、重厚感のある赤ワインを生む。

ペアリング

ジビエ料理やラム肉、濃厚なチーズといった力強い料理にぴったり。
北海道らしい食文化との相性が注目されています。

将来性

山幸はまだ生産量が限られていますが、「寒冷地日本ワイン」の象徴として期待され、海外市場でも注目が高まりつつあります。

 

3品種の比較と選び方

品種 タイプ 味わいの特徴 相性の良い料理
甲州 すっきり爽やか、ミネラル感 寿司、天ぷら、煮物
MB-A 果実味豊かで柔らかい 焼き鳥、すき焼き、トマト料理
山幸 力強く濃厚、スパイシー ジビエ、ラム、チーズ

このように、それぞれの個性がはっきりしているため、相手や料理に合わせて選ぶと失敗が少なくなります。
※MB-A=マスカット・ベーリーA

国際的評価と日本ワインの未来

甲州・マスカット・ベーリーA・山幸はいずれも国際的なコンクールでの受賞歴を持ち、OIV登録によって日本固有品種としての地位を確立しました。

日本ワインは「料理に寄り添う繊細なワイン」として世界で評価されつつあり、今後は次のような展望が広がっています。

  • 輸出の拡大:アジアや欧米市場での存在感アップ

  • ワインツーリズム:甲州=山梨、MB-A=新潟、山幸=北海道と地域観光との連携

  • ブランド戦略:「日本らしさ」を前面に出したプロモーション

日本ワインはスケールでは海外に及ばないものの、ストーリー性と独自性を武器に「世界市場で共感を得るワイン」へと成長しつつあります。


まとめ

  • 甲州:日本最古の白ワイン用品種、和食と好相性

  • マスカット・ベーリーA:日本生まれの赤ワイン、親しみやすさと歴史的意義

  • 山幸:北海道発の新世代赤ワイン、力強さと将来性

この3品種は、日本ワインの多様性と可能性を象徴する存在です。
「どのワインを選べばいいの?」と迷ったときには、まずこの3品種を知ることから始めてみてください。

More articles