北海道余市のぶどう畑を訪問してました

2025年12月12日KousukeMizutani
チャット の発言:

北海道余市は、近年日本のワイン産地として全国的、さらには国際的にも高い評価を受けています。冷涼な気候と海からの風がもたらす独特のテロワールは、酸がきれいで香り高いワインを生み、世界の冷涼産地と比較しても遜色のない品質とされています。ドメーヌ・タカヒコをはじめ個性豊かな造り手が集まり、国内外の評論家から高評価を得るワインが次々と誕生している点も特徴です。小規模ながらも情熱ある生産者が土地の個性を引き出し、多様なスタイルのワインを生む余市は、まさに日本のワインシーンを牽引する存在となっています。

先日、そんな北海道余市町にある二つのぶどう畑、「ソウマファーム」と「長谷川ヴィンヤード」を訪れました。どちらも余市を代表する生産者として知られ、ワイン用ぶどうの品質に強いこだわりを持つ農家です。11月に入り、余市ではいつ雪が降ってもおかしくない時期でしたが、この日は驚くほど暖かく、風も穏やかで作業のしやすい一日でした。翌日には雪が舞ったと聞き、まさに冬の手前の貴重な時間に畑に立つことができたのだと感じています。

今回の目的は、収穫後に行う大切な作業「枝おろし」をお手伝いすることでした。枝おろしとは、その年に伸びた枝を整理し、翌年の芽吹きがスムーズになるよう畑の状態を整える作業です。ぶどう栽培では一年のサイクルが明確で、冬に向けたこの工程は、翌年の品質を左右する重要な準備になります。

最初に訪れたのは「ソウマファーム」です。代表の相馬慎吾さんは、余市のスター醸造家たちから高い信頼を集める生産者で、ソウマファームのぶどうはドメーヌ・タカヒコ、ドメーヌ・モン、ランセッカ、山田堂、ミソノヴィンヤードといった、北海道を代表するワイナリーで使用されています。ワイン好きであれば誰もが知る生産者ばかりです。

余市町はかつてニシン漁で栄え、果物栽培も盛んな土地です。一日の寒暖差が大きく、果実に豊かな甘みと酸味のバランスをもたらします。ソウマファームのブルーベリーやナイアガラは、この気候の恩恵を受け、濃厚な甘みと爽やかな酸味が調和した味わいになります。収穫時には完熟の頃合いを一粒ずつ確認しながら丁寧に摘み取るという話を聞き、生産者の真摯な姿勢を感じました。

相馬さんの指導を受けながら枝おろしを体験させてもらうと、一本の木に向き合う作業の奥深さが見えてきました。残すべき芽を見極め、来年どの枝に養分を集中させるかを考えながらハサミを入れていきます。枝を切るたび、「この作業が来年のぶどうの姿につながっていくのだ」と思うと身が引き締まる思いでした。手袋越しに伝わる枝の温度や重さ、風に揺れる畑の音が、畑がまだ静かに呼吸していることを教えてくれるようでした。

午後から訪れた「長谷川ヴィンヤード」は、ソウマファームとはまた異なる魅力を持つ畑でした。余市町登町の西側に広がる斜面に位置し、陽光を斜めから受けるその風景は美しく、まるで絵画の一場面のようでした。ここにはシャルドネ、ミュラートゥルガウ、リースリング、ケルナーといった白ワイン品種が植えられています。余市の冷涼な気候と相性が良く、瑞々しい酸と繊細な香りを生む品種ばかりです。そして長谷川さんのぶどうは、さっぽろ藤野ワイナリーで“Rigde”や“Line”といったワインや、ドメーヌ・モンの“ハセドン”“ハセドネ”といったワインに形を変えます。

ソウマファームさんと同じくこちらでも枝おろしの作業をお手伝いしましたが、畑の傾斜がある分、立ち位置を変えるだけでも見える景色が大きく変わり、斜面の畑ならではの難しさと魅力を体感しました。長谷川さんは枝の一本一本に手を添えながら、その年の生育を読み取るように慎重に作業を進めています。ぶどうの声に耳を傾けるようなその姿勢は、ぶどう栽培が自然との対話であることを教えてくれました。

夕方、作業を終えて畑を振り返ると、整えられたぶどうの列が夕日を受けて静かに伸びていました。冬が近づく中で、一年のサイクルを終え、次の季節に向けて準備を整えた畑の姿は頼もしくもあり、どこか神聖な雰囲気が漂っていました。

余市の畑で過ごした一日は、ぶどうがワインになるまでの長い物語の、ごく一部に触れた貴重な時間でした。次にワインのグラスを傾けるとき、この日の土の匂いや、枝の感触、畑の静けさをきっと思い出すのだろうと思います。

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