11月「ふぐ」とワインのペアリングイベント開催レポート

2025年12月12日

 

冬の味覚として長く親しまれてきた「ふぐ」。その澄んだ旨みときめ細やかな食感は、和食の技と季節感を象徴する存在です。今回開催した「ふぐとワインのペアリングイベント」では、伝統的なふぐ料理にフランス&日本の個性豊かなワインを合わせ、料理とワインが互いの魅力を高め合う時間となりました。和食とワインの調和が織りなすハーモニーを振り返ります。


■ 先付

蒸し河豚 蕪吉野 振り柚子
× モンジュ・グラノン「シャティヨン アンディオワ アリゴテ」

温かな蒸し河豚の柔らかさに、蕪吉野のとろりとした質感が重なり、振り柚子の香りがすっと立ち上る一皿。口に含むと、河豚特有の清らかな旨みがじんわりと広がります。

合わせたアリゴテは、フランス南部ローヌ地方産。一般に冷涼なブルゴーニュをイメージするアリゴテですが、南仏の陽光を浴びたこのワインは、果実味のボリュームとふくよかさが際立っています。飲み口から果実の厚みがあり、続いてアリゴテらしいキレがやわらかく現れ、余韻には旨みが乗る。
蒸し河豚の繊細さに果実味が寄り添い、柚子の香りとワインの酸が爽やかに調和。料理とワインが互いの輪郭をくっきり浮かび上がらせる、丁寧な序章となりました。


■ 造り

鉄刺 割ポン酢
× カーヴハタノ「鞍掛シャルドネ 2023」

ふぐ料理の象徴とも言える鉄刺。極薄に引かれた身は、淡白さの奥に旨みと張りが潜み、噛みしめるほどに味が開きます。割ポン酢の酸味は穏やかで、ふぐの奥行きを引き立てる脇役として実に見事です。

この繊細な刺身に合わせたのは、長野県東御市・鞍掛の自家農園で育つシャルドネ。標高や冷涼さ、南斜面の恵みといったテロワールをまっすぐに映し出す一本で、若々しい柑橘や金柑、蜜、ハーブなどの香りが清々しく、味わいはクリーンかつ程よい厚みがあります。

鉄刺の淡い旨みに、ワインの細やかな酸が寄り添い、蜜や金柑の甘やかさがふぐの甘みをふわりと押し上げる――日本の風土が生んだワインだからこそ成立する、美しいマリアージュでした。


■ 酢の物

河豚 雲子 ポン酢醤油吉野
× プチ・ペリエール「ロゼ・オリジン 2022」

酢の物では、ふぐの身に加え、雲子が登場。濃厚でクリーミーな雲子と、ポン酢醤油吉野の澄んだ酸味の対比が心地よく、冬の海の豊かさが一皿に凝縮されたような味わいです。

合わせたのは、ロワール地方のピノ・ノワールから造られたロゼ。赤ワインのピノが持つチャーミングな赤い果実や軽やかな酸味に、ロゼ特有の爽やかさとキレが加わり、口当たりは非常にエレガント。まるでシャープなシャルドネのような涼しげな印象を与えつつも、可愛らしさや親しみやすさを兼ね備えています。

濃厚な雲子にはワインの酸が清涼感を与え、ふぐの身にはロゼの果実味が柔らかく寄り添う。酢の物という伝統的な和の一皿にロゼが見事に馴染み、料理の立体感をより鮮明にしてくれました。


■ 揚げ物

河豚唐揚げ 酢橘
× ペパン「ルージュ ピノ・ノワール No.19」

宴も終盤に差しかかり、香ばしい唐揚げが登場。衣は軽く、噛むとふぐの身が弾けるように旨みを放ち、酢橘を搾ると香りが一段と引き締まります。

ここに合わせたのはアルザス地方のピノ・ノワール。透明感のあるルビー色で、スパイスのニュアンスがほのかに漂いながら、ベリーのフレッシュな果実味が弾む一本です。ステンレスタンクで発酵し、古い大樽で熟成されているため、味わいは軽やかで後味が非常にやさしい。

ふぐ唐揚げの香ばしさと旨みに、ピノの軽い赤い果実が伸びやかに重なり、酢橘の香りが全体を爽やかにまとめ上げる。揚げ物×赤ワインという意外性を感じさせつつ、実に見事な調和を生みました。


■ おわりに

ふぐという日本の冬のご馳走とワイン。それぞれが持つ風土由来の個性が、料理とワインという二つのステージで響き合い、新しい発見や驚きを生み出す――そんな豊かな時間となりました。
これからも、日本の四季と食文化に寄り添いながら、ワインとの多彩な組み合わせを楽しんでいただけるような場をつくってまいりたいと考えております。

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